手お礼集




雪の積もる街にて


昨夜から降り続けた雪が積もり朝日を浴びてきらきらと輝いている。
コロニー産まれ、コロニー育ちのデュオにはそれが珍しく窓を全開にして外を眺めている。
「デュオ、寒いから閉めろ」
パジャマの上に上着をはおったヒイロが寝室から出てきた。
「なーこんだけ積もってるんだから、五飛誘って外で雪合戦しようぜ!」
今2人が住んでいる所はプリベンターの寮で、五飛は隣に住んでいる。
「寒い」
「嘘言うなよ本当は寒くないくせに。ほらさっさと着替えて外に行くぞ」


身も切るような寒さで目が覚めた五飛は、少し体を動かして体を温めたあと少し遅めの朝食をとるところだった。
そんな爽やかな朝をぶち壊すインターホンが鳴り響く…。
「おはよー五飛〜!雪合戦しようぜ〜!」
能天気な声が飛び込んできて五飛の目の前が真っ暗になった。

外に出ればまだ誰も足を踏み入れていなく綺麗な雪が広がっている。
デュオは2人から離れると、しゃがみこんで雪をかき集め丸く固めて棒立ちしている2人に向かって投げつけた。
「貴様!」
雪玉をぶつけられた五飛は雪玉を素早く作り応戦するが、ヒイロは棒立ちのままだ。
(五飛はすぐのってきてくれるっつーのに、まったくヒイロはのりが悪いやつだ・・・)
どうにかしてヒイロを雪合戦に参加させたいデュオは、五飛の投げてくる雪玉に当たりながら考えた。
道の端、太陽の光で少し雪が溶けたようで地面が見えている。そこに落ちている石を雪玉に仕込んだ。
(さすがのヒイロも石が入ってれば怒るだろ・・・!)
コントロールには自信がある。ヒイロの顔に狙いを定め、思いっきり投げつけた。

ガッと鈍い音をたてヒイロの額に当たるとうっすら血がにじむ。
ヒイロは手で血をぬぐうと雪を掴み力の限り固めていく。
尋常ではないヒイロの気配を感じ取った2人は一瞬固まったが直ぐに走り出した。

「デュオ!貴様何をした?」
「いやー石を入れたら怒るかな〜って思って…」
ガチガチに固まった雪玉を何個かもってヒイロは追いかけてくる。
「デュオ、お前を殺す!」
ヒイロが投げた雪玉は、デュオの顔のすぐ横を通りすぎガツンと塀にぶつかりめり込んだ。
さすがのデュオもぱらぱらと細かい欠片が落ちるのを見て顔が青くなる。
「ヒ…ヒイロさんその雪玉やばいって!そんなの当たったら死ぬっ」
必死にとめるがヒイロにやめる様子はない。
それどころかデュオのまわりでは、ガシャンとかバキッとかすごい音がしている。
一緒に走って逃げていた五飛は、自分に害がなさそうだと早々に戦線離脱をしていた。
「五飛助けてっ!」
「自分で何とかしろっ」
すたすたと寮へ帰ってしまった五飛にデュオは恨みがましい視線を送る。
その瞬間鈍い音と共にデュオは雪の中へ沈む。満足気に鼻を鳴らしヒイロは、気絶したデュオの足を持ち引きずって部屋へと帰っていた。

次の日、部屋の中には入ってたもののそのまま放置されていたデュオは風邪を引いた。
さらに雪玉が当たってできたたんこぶが痛む。
デュオは布団の中で丸くなってうーうー唸りながら、ヒイロだけは怒らさないようにしようと心に固く誓ったのだった。





彼は海の底で宇宙を夢見る


「海の中は少しだけ宇宙に似てるよな」
筋金入りの宇宙っ子のデュオは言う。
「暗くて、動きにくくて、息ができない」
机に足を乗せ座っている椅子をギコギコと動かしながら、天井を見つめていたデュオは隣に座っているヒイロの方を見る。ヒイロは書類に目を落としたまま答える様子はない。
「ただ見える景色は全く別物だけどな。海には魚、宇宙には星が…」
言い終わればまた天井を見つめて物思いに耽っている。

仕事と何ら関係の無いデュオの話は、ただ単にホームシックにかかっているだけだとヒイロは知っている。ホームシックと言っても孤児のデュオには生まれ育った家と言うものが無い。その代わりに転々と渡り歩いた宇宙全体が家なのだ。
ヒイロはこういう状態になっているデュオには何を言っても無駄な事も知っている。宇宙に帰る事が一番の薬だということも。
結局仕事が忙しくてどこにも行けない今の状況に、ホームシックな上に放浪癖のあるデュオは飽き飽きしてしまっただけなのだ。

ガタンと音をたてデュオはやりかけの仕事を残したまま机を離れていく。
ヒイロはあえて後を追わずにいた。デュオのいる場所はだいたいわかっているし、今行っても煙たがられるだけなのもわかっている。今ヒイロにできる事は急いで仕事を終わらせて2人分の休暇をもぎ取ることだけだ。


ようやく仕事を終わらせたのはあれから3時間たってからで、デュオの終わっていない仕事は一応上司ということになっている五飛に全て押し付けた。そしてレディに交渉すること1時間、何とか2人分の休みを勝ち取ったヒイロは急いでデュオの元に向かう。あれから4時間も経っているので、さすがに家に帰っているだろうと思ったが一応近くの教会を覗いてみる。そこにヒイロの予想を裏切ってデュオはいた。冷たい空気にろうそくの炎が揺れている。今は2人しかいない教会で、人形の様に動かずにデュオはステンドグラスを見ていた。
信仰心の欠片もないデュオはよくこの教会へきている。そして懺悔するわけでも祈るわけでもなく、ただ椅子に腰をかけステンドグラスやら天井やらを見ているのだった。

「この教会は立派だよな。ステンドグラスだってそこら中の装飾だってすげーきれいだ」
ヒイロが来ていたことに気がついていたのか、デュオはステンドグラスの方を見ながら喋りはじめる。
「きちんと整備されていて壊れているとこも無いし…俺のいた教会とは全然別物だ」
座っていた椅子から立ち上がり、ゆっくりとヒイロの方に体を向けた。
「さてと、仕事に戻りますか!」
軽く伸びをしてデュオは出口に向かって歩き出すが、外へ出る前にヒイロに止められてしまう。
「仕事は五飛に任せておいた。俺たちはこれから休暇だ」
「はあ?何いってんのお前。だいたいあのレディが休みなんてくれるわけないし、五飛が俺の仕事までやってくれるわけないじゃん」
「…無理矢理休暇を貰った」
「マジかよ!」
デュオは休暇が終わった後の事を考えて頭を抱える。
「お前は何でそう強引なんだよ…」
「何処か行きたい所はあるか?」
深いため息をひとつついたデュオはヒイロの肩に腕を回し目を合わせる。
「もうお前とだったら地の果てだって海の底だって宇宙の彼方だって何処だって良いよ…」
デュオは軽く唇を合わせるとヒイロの手を取り外へと出ていった。