のガスパール




最近デュオは神父様に買ってもらった絵本がお気に入りで、毎日毎日飽きもせず読んでいた。
何がそんなに面白いんだ…と思う反面、静かな日々が続きヒイロは平和な毎日を満喫していた。


「おれ、ヘレンの誕生日に月光草をあげるんだ!だからヒイロも探すの手伝って!」
いきなり立ち上がったデュオがヒイロに宣言する。
月光草とは月の光を浴びてきらきらと輝いている植物らしい…。らしいというのも月光草とはデュオの読んでいる絵本に出てくるもので、実際には存在しないものなのだ。だから見つけることなんてできるはずもないのだが…。
「今日の夜に行くから!」
普段ならすぐに否定するヒイロが珍しく黙り込んでしまったのを自分の都合の良い方へ解釈したのか、にこにことどこを探そうだのあそこにありそうだのと言っていた。
「誰が行くと言った?だいたい月光草は作り話だ。現実にあるわけ無いだろ。それに夜に出歩くなんて危険なこと許可すると思ったか?」
「でもヘレンの誕生日プレゼント…」
「他の物にすればいい」
ピシャリと言われてしまいデュオは目に涙を貯め、しまいには枕に顔を突っ伏してわんわん泣きはじめてしまう。しかし長年の経験からそれが嘘泣きだと知っているヒイロは、デュオに背を向け無視していると時々背中に視線を感じた。やはり嘘泣きか…とつきそうになるため息を飲み込んで様子を伺っていると、効果が無いことがわかったのか拗ねて寝てしまったようだ。
やれやれと今度こそため息をつくと、眠ってしまったデュオに毛布をかけてやる。結局夕飯になっても起きてこず、そのまま夜は更けていった。


月が空の真ん中に上がった頃デュオは目が覚めた。自分の隣でぐっすりと寝ているヒイロを見ると、顔の上で手をひらひらさせヒイロが起きないことを確認しこっそりと布団から這い出た。
ヒイロを起こさないようにヘレンに作ってもらったバッグを手にすると部屋から抜け出す。いつもは気にしないドアの明け閉めや廊下の足音、早く外に出て行きたいのを我慢して音をたてないように慎重に部屋から抜け出す。教会の外に出てしまえば、こっちのものだと言わんばかりに森へと向かって走っていった。

空には星は一つもなく真ん丸な月だけが空に浮かんでいる。月明かりのおかげで十分に明るかったが、さすがに森までとはいかず暗い道を進む。
「やっぱりヒイロと一緒に来れば良かったかも…」
少し弱気になってしまうがブンブンと頭を振り、自分を勇気付けるために大きな声で歌をうたいながら進んでいく。
いつもつまずく木の根っこを通りすぎると、木の隙間から入ってくる月の光を浴びてきらきらと何かが光っている。それを見つけたデュオは目を輝かした。
「ヒイロの嘘つき!こんなに近くにあるのにっ!」
駆け足で取りに行くとそこには植物ではなく銀色に輝く横笛が落ちていて、デュオは笛を手に取るとがっくりと肩を落とした。
「あからさまに落ち込んでいるところ悪いんだが、その笛を返してもらえないか?」
いきなり背後から話しかけられ飛び上がって驚いた。恐る恐る後ろを振りかえると、そこには顔の半分が前髪で隠れている背の高い男が立っていた。男の腰にくくりつけてあるバッグの繊維の隙間からきらきらと光が漏れている。
「その笛はとても大事なものなんだ」
光の漏れているバッグに興味がいっているデュオに再度話しかけると、さっと笛を背中に隠してしまう。その様子を見て男は困ったような顔をした。
「その中身ってもしかして月光草?」
バッグを指さしデュオはたずねる。
「いや…月光草とやらがどんなものか知らないが多分違うだろう」
「そっか…」
またもデュオはがっくりと肩を落とした。
「役に立てなくてすまない。とりあえず笛を返して欲しいんだが」
「あっごめん」
背中に隠した笛を手渡してまた森の奥へと進もうとするとみつあみを捕まれ阻止された。
「いてっ!何すんだよ」
「こんな時間に1人で何をやっているんだ?夜の森は危険だ」
「ヘレンの誕生日にあげる月光草を探してんの」
「それはここら辺に生えているのか?」
「知らない」
デュオが即答すると男は眉を寄せ、少し考え込むと地面に膝をつき小さなデュオと目線を合わせた。
「俺の知り合いがもしかしたら知っているかもしれない」
「ほんと!?」
「ああ、湖に行けば会えるだろう」
言うやいなやひょいとデュオを抱き抱え道が整備されていない方へ歩き出す。
「わわ!何すんだよっ!はなせおっさん」
「…おっさんじゃない。トロワだ。」
「湖に行く道は向こうだぞ!」
デュオを抱え獣道をかまわず進んでいくトロワに、今までいた道を指をさして抗議をするがさらっと流されてしまう。
「ここをまっすぐに進むと近道だ。お前が歩くには危ないから少しじっとしててくれ」
トロワはまるで障害物が無いかのように真っ暗な獣道を歩いていく。
「1人でこんなところにいて家族が心配するぞ?」
「…ヘレンへのプレゼントだからヘレンには内緒にしたいし、神父様は年だし…ヒイロはすぐに駄目って言うし…」
デュオの話はだんだんヒイロ愚痴になっていく。話題を変えるすきもなく結局トロワは湖に着くまでヒイロへの愚痴を聞かされてしまったのだった。

風はなく湖にはきれいに月がうつりこんでいる。トロワはデュオを下ろすとパンッと手を叩く。すると水面に浮かんだ月の周りがキラキラと輝きはじめ、人の形がうっすらとあらわれはじめる。すると目が開けられないほどの光が辺りを包んだ。
デュオは恐る恐る目を開けるとそこには髪の長い女の人が立っていた。
「あらトロワ、どうかしましたか?」
「リリーナ、この子が知りたいことがあるそうだ」
トロワに背中を押されたデュオは、リリーナと呼ばれた女の人の前に立つとリリーナはトロワと同じようにかがんでデュオと視線を合わせてくる。
「何が知りたいの?」
「月光草がどこにあるか知ってる?ヘレンにプレゼントしたいんだ」
「月光草…ですか。」
「知ってるの?」
目を輝かすデュオと対照的にリリーナの顔は曇っていく。
「ごめんなさい。わからないわ…。」
「やっぱヒイロの言った通り月光草なんて無いんだ…」
目をうるうるさせるデュオに泣かないでとリリーナは頭を撫でて慰める。するとトロワはデュオの顔の前に手をさし出し、これをプレゼントすればいいと淡く光る小石を渡した。
「なにこれ?」
「星の欠片だ」
そう言うとトロワは笛を取り出し吹きはじめる。するとバッグから光が溢れだし空に昇っていった。光を目で追えば月しか無かった空には星が輝いていている。
「すごい…!本当の星って知ったらみんなビックリするだろうな!」
ヘレンと神父様の(ついでにヒイロも)驚く顔を想像してついつい顔がにやけてしまうデュオだった。




…ュオ……デュオっ!
思いっきりほっぺを叩かれデュオは飛び起きた。
「お前は何時間寝れば気がすむんだ?」
まだ眠たい目を擦りながらヒイロを見れば、冷ややかな目でこちらを見ている。
「シスターへのプレゼントは考えたのか?」
ヒイロの言葉にハッとして手を開いて見てみるが手の中には何にも無い。
「夢だったんだ…」
「…?どうでもいいが早く食堂に行かないと朝食に抜きにされるぞ」
ぐーっとお腹がなって昨日の夜何も食べていないことを思い出しあわてて着替えて食堂に向かう。
夢だったからって落ち込んでばかりいられない。急いで誕生日のプレゼントを探さなくてはならないのだから。
朝食を食べ終えたデュオは一旦自分の部屋に戻りバッグを手に取ろうとすると、バッグの底が淡く光っていることに気がつき頬を緩ませた。