弔いの鐘
雲がこの街にある一番高い塔に被りそうな位低い位置にある。まだ昼間だと言うのにどんよりと重く暗い雲のせいで光を遮られて薄暗い。いつもなら沢山の人で賑わっているこの広場は、この天気のせいか閑散としていた。
広場の中央にある噴水に、この辺りでは見かけない格好の子供が座っている。
旅人のようで体に不釣り合いなほど大きいバッグが横に置いてあり、子供は多分何度も読んだのであろうボロボロの本を読みながら足をぶらぶらさせていた。
そこにやはりこの辺りでは見かけない格好の青年がどこからともなく表れて、子供の真正面で立ち止まり少し見つめるとおもむろに話しかけた。
「デュオ、もう行く時間だ」
デュオと呼ばれた子供は青年の方をチラリと見ると、返事をする気が無いのかすぐに読んでいた本へ視線を返すが、青年は無視されたことに気にする様子もなく再度名前を呼んだ。
「…なんであんたがオレの名前を知ってるか知らないし、オレをどこに連れて行こうとしてるか知らないけど、オレはここで待ち合わせをしてるんだ。だからどこにも行かない」
デュオは警戒しているらしく本を閉じて、いつでも逃げられる状態をつくり青年を睨むように見つめていた。
「だがその待ち人は来ないかもしれない」
会ったこともない青年に大切な人を否定された気がしてデュオはカチンとくる。
「あいつはオレとの約束を破ったことは一度もない!それに知らない人にはついて行くなと言われてるんでね!」
ついつい声をあげてしまったが、まばらにいる人々は2人のやりとりに興味を示す様子もなく足早に通りすぎて行った。
もうこれ以上話すことは無いとデュオはそっぽを向いて黙ってしまうと、広場はまた元の静けさを取り戻す。
その静寂を破るようにガラガラと大きな音をたて、小さな麻袋だけが積んである荷台を引いた馬車が通りすぎると、その後ろからまるで影から抜け出したかのような黒尽くめの男が2人の方へゆっくりと近づいて来た。
「ほらオレの言った通りだろ!」
デュオは男を見るなり勝ち誇ったように笑みを浮かべると、近くに来た男に飛び付いた。男はそれを受け止めると青年を一瞥し、すぐにデュオのわきにあった荷物を担ぎ細い路地の方へと向かって歩いて行く。デュオはそれに続き、2人は吸い込まれるように路地の闇に消えていった。
しばらくその様子を眺めていた青年は、彼らを追うように路地へと向かい、彼ら同様闇の中へ消えてしまった。
重たく広がる雲からは、いよいよ冷たい雨が降ってきて地面に無数の黒く丸いしみを作り、人のいなくなった広場には遠くから聞こえる鐘だけが虚しく鳴り響いていた。