※注意※
このお話は12です。決して21ではありません。
ヒイロ・ユイの生活が劇的に変化したのは中学の二学年に上がるにあたり、クラス替えをしたことである。
ヒイロは小学生いや、その前からクラスで浮いた存在であったが、それは中学生になっても変わらなかった。
その中性的な顔は、街を歩けば人が見惚れる位美しいのだが、いかんせん眉はキリリとし射抜かれるかと思うほど鋭い視線が人を遠ざけている。性格の方も多少変わっていて、口調の方もまるで男の子の様だった。
だからと言って他の生徒からいじめられているという事はなく、男子からは近づき難い人、女子からは女子高にありがちな、女子にモテる女の子だった。
さて、変化の切っ掛けであるが、それはデュオ・マックスウェルにある。
お尻に届きそうな長いみつあみがトレードマークの男の子で、華奢な後ろ姿はまるで女の子みたいであるが、正面から見ればれっきとした男の子。性格は明るく社交的であり、ヒイロとは対称的であった。
クラスが同じになった当初は、他の生徒とは違いべたべた触ってきたり喋りかけてくるデュオが鬱陶しくてしょうがなく、できればいなくなって欲しい存在だった。
それが通称ソース事件を切っ掛けにヒイロの中でデュオの評価が変わったのだ。
ソース事件とは、給食中ヒイロの小袋入りソースが切り込みがあるにも関わらず、ビニールが伸びてしまい開けるのが困難になってしまい、普通手で開けることを諦めてハサミで切ってしまうものだがヒイロは違った。持ち前の怪力で無理矢理こじ開けたのである。
その結果、ソースは飛び散りかけるはずだったコロッケだけではなく、他の皿や机、更には制服の白いシャツにまで飛び散ったのだ。
自分のミスに呆然としていたところ、丁度対面して座っていたデュオがポケットから取り出したティッシュをヒイロに渡し、一旦教室を出るとハンカチを塗らして戻ってきた。そして机に飛び散ったソースを貰ったティッシュで拭いていたヒイロの所にやって来ると、袖に付いたソースの所にハンカチを当て染み抜きを始めた。
いきなり何事かと驚いたヒイロであったが、ただ煩わしいだけの男ではないとその時評価が変わったのだ。
それだけの事で何が劇的か、と思うだろうが今まで他人に興味を持ったことがなかったヒイロが初めて興味を持ったことこそ、大きな事件なのだ。
ヒイロが汚れたハンカチを遠慮するデュオから奪い取り、家で漂白剤を付け洗濯をし更にアイロンを丁寧にかけている姿に、両親は影で涙したくらいに…。
ソース事件後ヒイロは分かる限りデュオの事を調査しはじめた。
気になることは徹底的に調べる、やるときはとことんやるのがヒイロの信条なのだ。
しかし同じクラスの生徒でデュオの事を詳しく知っている人はいなく、誰でも知っている内容しか聞けなかった。
ある日、ヒイロが帰宅しようとすると、昇降口にデュオの姿があった。
「あ、ヒイロ!」
こちらから声をかけるまでもなく、ヒイロに気がつくとデュオは寄ってくる。
「お前も今帰りか?部活は?」
「手芸部は今日は休みだ。お前こそ部活はいいのか?」
「俺は入ってないから」
この中学では絶対に部活に入らなくてはならない。だから入っていないと言うことはあり得ないのだが…。
「帰るなら途中まで一緒に帰ろうぜ」
不思議に思っているヒイロの思考を遮るように、デュオは誘ってきた。
断る理由はなく首を縦に降ると、直ぐに靴をはきかえ自転車置場に向かう。
「手芸部か〜。なんかイメージと違うな」
自転車を取るヒイロを待っているデュオはぽつりと呟いた。
「そうか?お前は運動部に入っていると思ってたぞ」
「…ちょっと忙しくてさ…」
頭をかきながらはにかんでいる姿は、これ以上深入りしてくることを拒んでいるようだった。なのでヒイロはその先を聞くことせず、だからと言って違う話題があるわけでもないので口を閉ざした。
「デュオ!」
2人無言のまま歩いていると、校門を出てすぐのところで声をかけられた。
道に止めたトラックの前に立つ、自分達より少し年上位の男がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「ソロ!どうしたんだよ?」
「丁度ここら辺に用があってな。それよりあの子…」
「たまたま昇降口で会ったんだよ」
「へ〜」
ソロと呼ばれた男はやはりニヤニヤしながら、まるで品定めをしているかの様な目でヒイロを見ていた。
「あ、もしかしてハンカチの子?」
いきなり話をふられて呆気にとられたが、ヒイロは直ぐに返事をした。
「やっぱり!」
「ソロっ早く行かないとハワードに怒られるぞ!」
「わかってるよ。デュオと仲良くしてやってくれよな」
ヒイロだけに聞こえるように言うと、ソロはヒイロの頭をポンポンと叩いてトラックに乗っていった。
「俺から誘ったのにごめん。また明日な!」
トラックの中から手を振る2人を見送るとヒイロは自転車にまたがり帰路につく。ソロとデュオの関係、トラックにかいてあった社名の事を家につくまでの間ずっと考えながら…。
「おはよー」
ヒイロが朝自分の席で本を読んでいると、遅刻寸前で登校してきたデュオに肩を叩かれる。視線だけで返事をすると、気にした様子もなくデュオは自分の席に着いた。
「昨日は本当にごめん。あとソロが何か変な事言わなかったか?」
「いや別に…」
「良かった〜。あれからずっとお前の彼女か?っと言われてさー。全くそんなんじゃないってのに…。ヒイロもそんな風に思われたら迷惑だろ?」
苦笑いするデュオにヒイロは何故だかカチンと来て読んでいた本を力一杯閉じた。
いきなりの事にデュオが驚いている。
「別に迷惑ではない」
ぎっとデュオを睨み付けると、デュオは戸惑った目でこちらを見ていた。
その後直ぐに担任が来てホームルームが始まり、2人は何も会話することなく1限目が始まった。
(俺はいったい…)
先程のデュオに対する態度に自分自身戸惑っている。今まで他人に(いや親にもあまり出さないが)感情を出したことがなかった。それなのにデュオに対しては、気になったり、イライラしたりで自分が自分では無くなってしまったように思えた。そのなんだかわからない感情の起伏が余計にヒイロを不安にさせ、苛つかせていた。
1日ぼうっとしたまますごし、上の空のまま部室となっている家庭科室へ向かうと、すでに同じ学年のリリーナが熊のぬいぐるみを縫っている所だった。
「あらヒイロ、こんにちは」
リリーナは親同士が仲がよく、幼稚園からずっと同じ所へ通っていたからか、他の生徒とは違い普通に話しかけてくる。挨拶されたヒイロはいつも通り返事をせずに自分の席に着こうとしたが、リリーナに引き留められた。
「ヒイロ元気がないようだけど、どうかしたのですか?」
ヒイロが問いかけに無言で俯いていると、リリーナが何か気がついたように針を置いた。
「もしかして、デュオ君の事?」
やはり俯いたままヒイロは黙っている。この態度にピンときたリリーナは椅子を引いてヒイロに座るよう促した。
「彼と喧嘩でもしたのですか?」
「喧嘩は…していない」
「では…」
「ちょっと待て。その前に、なぜデュオ・マックスウェルが関係しているとわかった」
ヒイロのその問いにリリーナは小さく吹き出した。
「学校中の噂になっているし、あなたの態度を見ていれば簡単にわかります」
「噂…?」
「あなたとデュオ・マックスウェルが付き合っているって、学校中で有名な話ですわよ」
いつの間に入ってきたのか、リリーナと同じく腐れ縁のドロシーが楽しそうに2人の元へやってきた。
「つ、付き合っているだと…!」
「あら、違うの?」
ほほほ、と笑うドロシーにヒイロは再び黙ってしまう。
「ドロシーあまりいじめないであげて。ヒイロ私たちで良ければ力になりますよ」
リリーナは真面目に力になってくれるだろうが、ドロシーは…見るからにこの状況を楽しんでいる。しかし他に話せる人もいないので、渋々自分がどんな状態なのかをヒイロは話した。
「…なぁんだ。噂はあながち間違いではないのね」
「ドロシー!…ヒイロ、あなたはデュオの事が気になって仕方がないのですね」
ヒイロは素直にコクリと頷く。
「それはズバリ恋ね!」
今にも吹き出しそうな顔をしてドロシーは高らかに断言した。
好きだの、惚れた腫れただの、恋だの愛だの、自分には関係の無いものだとヒイロは思っていた。しかしそれが自分を苛つかせているものの正体だと知り、自分のことながら驚いてしまった。
「まさかこんな日が来るなんて思ってもみませんでしたわ!」
驚いて固まってしまったヒイロをよそに、ドロシーはからかうネタが見つかって嬉しそうに笑っている。
自分の気持ちに無自覚なヒイロと、おもちゃを見つけて喜んでいる子供の様なドロシーを見て、リリーナは深いため息をついた。
つづく…?
20120122