ある日ヒイロが学校から帰宅するとテーブルの上に、1、2週間空けると殴り書きされた紙が置いてあった。
デュオが仕事で家を空けるのは大して珍しいことでもない。しかし、それだけ急いでいたということだろうが、寝室はタンスから洋服が出ていたり、机から落ちた書類は床を覆いつくしていたりで、まるで泥棒にでも入られたかの様な酷い状態だった。
ヒイロはそれを片づけながら、今日学校での出来事を思い返す。クラスメイト達は一度この家で勉強会をしたのがいけなかったのか、何が楽しいのかあれから何かとこの家に集まりたがる。前よりもいくらか社交的になったとはいえ、デュオとの関係や、プライベートの事などをいちいち聞かれるのは煩わしい。デュオなら適当にベラベラ喋れるのだろうが、人には得意不得意がある。こればかりは仕方ないのだ。そうヒイロは開き直っている。クラスメイトもだんだんヒイロの事が分かってきたのか、素っ気ない態度をとっていてもめげずに話しかけてくるようになった。
そして今日もあの家に行きたいと言われ、対処に困っていたところだった。ヒイロは何度か断っていたのだが、そろそろ勝手に押し掛けてきそうな雰囲気で言われ、思わず頷いてしまった。みんなが来るのは3日後。そう約束したのだが、ちょうどデュオが仕事でいないのはラッキーだった。
初めてクラスメイトが来ると言ったときからデュオは、何やらそわそわしたりにやついたりと、いつもに増して落ち着きがなかった。嫌な予感がしたヒイロは、一通り部屋を検索してみると、案の定小型カメラが何台か隠されていたのだ。きっとリリーナやカトル当たりにでも勉強会の様子を送るつもりだったのだろう。そんな物を送られたら、次に会う時にからかわれること間違いないとヒイロは確信している。デュオのお喋りを黙らせるのは簡単だが、あの2人を黙らせるのは至難の業だ。とにかくあの2人には知られたくなかった。
ヒイロはデュオが散らかした物を片づけながら、一応カメラやマイクが無いこを確かめる。そうは見えないがデュオだって一応元特殊工作員なのだ。念には念をと探したが、結局見つからなかった。ヒイロはひとまず安堵し、クラスメイトのくる日を待った。
そして3日後。デュオは仕事でまだ帰ってきていない。クラスメイト達は少々残念そうであったが、気の散る相手も無く、安心して勉強ができると、ヒイロはほっとしていたのだが、嵐はいきなり訪れた。
乱暴に玄関のドアを開けた音が勉強中の静かなリビングに響きわたる。ノートに、テキストにと落としていた視線が一斉に玄関の方へ向いた。
「たっだいま〜!」
まさかヒイロのクラスメイトたちが来ているとは思ってもいないドアを開けた張本人は、玄関どころか狭い家いっぱいに響く大声で能天気に帰宅の挨拶をしている。
最低でも1週間は帰ってこないだろうと安堵していたヒイロは、普段よりも上機嫌なデュオの声にげんなりした。
「・・・すまない。少し待っていてくれ」
と一言残し、ヒイロはリビングをでると、廊下はすでにアルコールのにおいが充満していた。
「おっ!ヒイロ!久しぶりだな〜。元気だったか?」
普段以上に締まりの無い顔でへらへらしているデュオが、大きな荷物を玄関に置いて靴を脱いでいる。
「デュオ・・・1週間は戻らないんじゃなかったのか?」
リビングから視線を感じ、ヒイロは小声で質問するが、デュオはやはり大声で答えた。
「ああ、何かスゲー大変な仕事だって言われたから手伝いに行ったのにさ〜、全然大した事なくて・・・あれくらいぱぱっとできなくてどうすんだよ!って説教してきた」
デュオは靴を脱ぎ終わると、そのまま廊下に寝っころがる。
「でさーその後みんなで飲みに行ったんだけど、いきなりガキが来る所じゃないってからんできた奴らがいてさ・・・」
身長に伸び悩んでいるデュオは、下膨れた顔も相まって実年齢には見えない。しかしそう見えたとしても、未成年なので酒盛りしている方がおかしいのだが・・・。
「あんまりにもうるさいから、飲み比べで勝負してきた」
「で、こんなにへべれけになっているのか・・・」
「まあまあ、あっちは全員つぶしてきたぜ?」
あははと楽しそうに喋るデュオに、ヒイロは飲んでいないのに頭が痛くなってきた。
「俺たちの飲み代、全部あいつらにつけといた!喧嘩売る相手が悪いよな〜」
デュオは同意を求めてくるが、ヒイロは猛烈にドアからデュオを投げ捨てたい衝動に駆られた。その衝動をぐっと堪え、とにかく廊下に転がっているデュオをどうにかしなくてはと考えていた。
「おいヒイロ、聞いてんのか?」
さっきまでの楽しそうな顔から一変、デュオの目は完全に据わっている。とりあえずヒイロはこれ以上デュオが怒り出さないようてきとうに相槌をうつ。
「デュオ、立てるか?とりあえず1階で寝ていろ」
「なんでだよベッドで良いだろ。俺の家だぞ!文句があるなら出ていってもいいんだぜ?」
唐突に怒りはじめたデュオが勢いよく立ち上がり歩き出そうとした瞬間、派手な音を立てて崩れ落ちる。廊下に顔を打ちつけても痛みを感じないほど酔っているデュオは、崩れ落ちた姿勢のまま眠ってしまった。
そのデュオの気持ちよさそうな寝顔に、ヒイロは深くため息をつくと、デュオを抱え込む。さらに荷物を持つと玄関を出て階段を降り、事務所の中へと投げ込んだ。
乱暴に扱っても全く起きる様子のないデュオを捨て、ヒイロは友達の待つリビングへ戻った。先ほど面白そうに廊下を覗いていた目はすでにテキストに向かっている。ヒイロが席に戻ると、視線はヒイロに集中したが、げんなりとしたその顔をみてとてもデュオの事について訪ねる雰囲気ではなくなってしまった。
結局その日は勉強会が終わるまで気まずい雰囲気となりクラスメイトたちはぎこちないまま帰っていった。
次の日、デュオは酔っぱらって何をしたのかを覚えているはずもなく、身に覚えがない痛みに首を捻り、ヒイロはというと、変わっているヒイロの同居人の話で持ちきりになっている教室に頭を痛めていた。
20110513