1 酒場の女

いらっしゃい。あら、坊やの飲める物があるかしら…。ふふふ…冗談よ。恐い目で睨まないでちょうだい。あの子と違って冗談の通じない子ネェ。えっ?ああ、丁度あなたと同じくらいの身長でサ、髪は女の子みたいに長くてみつあみに纏めて、そうそう愛嬌のいい子だよ。いくつだか知らないけど、お酒に強くてサァ、ここいらで一番の酒豪と飲み比べしてたわ。あの蟒蛇が潰れちゃったってのに、あの子ったら全然、一滴も飲んでないみたいでね、本当ザルって言葉がピッタリの子だわ。え?こんな話は興味ない?ごめんなさいね。あの子最近来るようになって、住んでる場所とか、何をしているのか全然知らないのよ。ああ…でも修理屋の親父さんと一緒に来てたから、もしかしたら港の付近にでもいるかもしれないよ。あら注文もしないで行くの?つれない子ね…。あの子に会ったら、一緒に来てね…一杯くらいはサービスするわよ…。


2 機械油にまみれた男

なんだ、お前あいつの知り合いか?あいつガキの癖に良い腕しててよ、俺も助かったよ。さあねぇ…俺も知らねえなあ…。うちにいきなり来て、金が無いから働かせてくれってさ…。今は何処にいるんだか知らねえよ。まあ、少し金を貯めるって行ってたから、この辺りにいるんじゃないか?俺んちに就職しないか?って聞いたらよ、俺は一ヵ所に留まっていられないって言ってたぜ。ハハハ、ガキの癖して生意気なやつだよ。まあ、あんだけ良い腕してるなら、どこでも引っ張りだこだろうし、食うには困らないだろうがな。ん?もう行くのか。悪いな。力になれなくて。


3 客引き

あらカワイイ坊やね。ちょっと寄ってかない?…ああ、あの子ね。知ってるわよ。…じゃあ中で…あら、行っちゃうの?せっかちねえ…。この間ね、ここで喧嘩があって、あ、内容は大したことないのよ。肩がぶつかったとか、そんな下らないことでね。ほらここら辺は血の気が多い人が沢山いるでしょ?だからちょっとのことで乱闘騒ぎになることが多いのよ。本当困った人たちよね…。そう、それでね、あの子ってほら、あなたみたいに、華奢でしょ。だからチョッカイ出す人も多くてね…。でも、見た目とは全然違うの。いっつも私達に手を出したり…手癖の悪い奴がさ、ああ、そいつここら辺の女、みんなに嫌われてるんだけどね。あの子って愛想も良いし、この辺じゃあ見ないタイプでしょ…。だから女達にチヤホヤされててね。それが気に食わなかったのか、いきなり喧嘩を吹っ掛けてきたの。いい歳こいた親父がだよ?全く馬鹿らしいったらありゃしないよ。あの子、最初は相手にしてなかったの。でも、さっき言った通り、イチャモンつけてさ、あいつがいきなり殴りかかってきたの。それをスッと避けてね…、それから奴の方を向いたんだけど…。その時、サァッてさ空気が変わったの。私はあの子の後ろ姿しか見ていなかったんだけど…、こう周囲の温度が下がるような…。今思い出しても鳥肌が立つよ。それで、あの男も顔を真っ青にしちゃってさ…、腰が抜けた様に尻もちついて…なんだったんだろうね…。その後みんなシィンとなっちゃってるのに、笑顔でどうしたの?って言われたらさ…こっちだってどうして良いかわからなくて、呆然としちゃったわ…。え?ああ、ここ何日か来てないわよ。さあ…何処にいるかは知らないわ。ごめんなさいね。


4 日焼けした大男

…知ってるさ。知ってるが話したくは無いね。ヨソを当たってくれないか?二度とあいつの事は思い出したくないんでね。俺はあいつがはやくここから出ていってくれることを祈っているよ…。なんだ、お前もしつこいな…。あいつがいる場所なんて俺が知ってるわけないだろ。サッサッとあっちへ行きな…。


5 魚を干す女

なんだい、馬鹿だねえ!あの男にあの子の話をしちゃったのかい?フフフいい気味だね。あれでちょっとは大人しくなるだろうサ。ああ…悪いね。私もあんまり詳しく知らないんだよ。たまぁに話すだけだからね。いつもにっこにこしてさ、挨拶してくれるのよ。それでねこの作業が珍しいのか、ジッと魚を見てたよ。ここら辺じゃあどこでもやっている作業なのにね。大きな目きらきら光らせてさ。女達が可愛がるの、わかるよ。なんかこう、母性本能を擽られるっていうのかね?あ、そうだ、一枚持ってくかい?遠慮しなくて良いからサ。あの子に会うんだろ?一緒に食べなよ。ほら!


7 真っ赤な顔の酒臭い男
ええ?ああ…あの坊主ね…。そりゃあ知ってるよ。飲み比べしたからな。忘れるわけないだろ…。あいつ酒をさ、水でも飲むかの様に飲みやがって…。俺はこの辺で一番の酒豪で通ってたのによう…。面目丸潰れさあ…。場所ねえ…。さあ…俺が聞きたいくらいだよ…。そしたらもう一度しょう…。…。


8 再度酒場の女

ちょっと、寝ないでくれよ!全く飲み過ぎだよ。…あの子見つからなかったの?結構気まぐれな所があるからね。もしかしたら、もうこの街を出ていったかもね…。だからそんなに睨まないで頂戴。本当に冗談の通じない子なんだから。大丈夫よ。さっき他のお客さんが見たって言ってたから。運が良ければここに来るかもね。それ、あのおばさんに貰ったんでしょ?あの子良く見てたからね。あ、あなた達コロニー出身なの。だから珍しかったのね…。それあの子が来たらそれ焼いてあげるから。一緒に食べろって言ってたでしょ?そりゃあわかるわよ。ここに何年住んでいると思ってるの?…あら、いらっしゃい…噂をしたら、ね。ふふふ。


9 長い三つ編みの男

よう。ったく…色んな人に俺の事聞きまくってただろ。お陰でこっちも色んな事聞かれたぜ…。で、何の用?わざわざここまで来たんだから何か用があるんだろ?黙ってちゃあわかんねえよ。え?何?…返事?何の?…ああ、あれね…。忘れてたわけじゃないぜ。今日だっけ?だから別に逃げたわけじゃないって。今日返事するなんて俺言ったっけ?なんでそんな疑わしい目で見るんだよ。返事ねぇ…また今度じゃ駄目?…いつまでって言われても…。この場で言うのはちょっと…。ほら、魚もきたしさ、これ食べて落ち着けよ。な。って、わぁ!それ以上言うな!!お前の気持ちは痛いほどわかったから、こんな人の多い所で言うなって!ここでてから返事するから!約束する。俺は嘘つかないって知ってるだろ?逃げないよ…多分…。はぁ…。全くしつこい奴だよ…。


10 前髪の長い男

で、結果はどうだった?まあ顔を見れば聞かずともわかるが、一応な。それで、お前はまだ追いかけるつもりか?押してばかりだと余計に逃げられるぞ…。たまには引いてみたらどうだ?まあ、あいつも一筋縄ではいかないからな…。お前たちの鬼ごっこは見てて飽きないから、ずっとやっていてくれてもかまわないぞ。もちろん、わかっていると思うが、こっちには被害を及ぼすなよ。…そんな愚痴を言われても、それこそ本人に直接言えばいいだろう?脈は無いわけじゃあ無いと思うぞ。じゃなかったら、見つかるような所にいないだろ。さあ…それは本人に聞かないと何とも言えないが…。ん…なんだもう行くのか?折角コーヒーを入れたのに。じゃあ、あいつに会ったらよろしく言っておいてくれ。まあせいぜい頑張れよ。





20101014