友達の話
ヒイロの衝撃的な発言にデュオは持っていたお椀を落としそうになった。
「…えっと、もう一度言ってもらえる?」
「明後日、ここで勉強会をしても大丈夫か?」
デュオの返事を待たずにヒイロはお新香に手をつける。
「そりゃあ別にかまわないけど…会ってことはお前1人じゃないよな…ってことは…」
ヒイロに聞こえるか聞こえないかの声でデュオが呟いた。
「3人」
「へっ?」
「3人ここにくる」
「あ…あぁ了解」
お椀と箸を握ったままぼーっとしているデュオにヒイロが眉を寄せる。
「どうかしたのか?」
「いや…お前も成長してんだなってつい感動しちまってさ…」
地球で一緒の学校へ通ってた時は、人には目立つななんて事を言っておきがら、自分は浮いた行動をしてはっきり言ってかなり目立ってたり…。まあそのせいか恐がって人がよって来なかったのだが…。
とにかくデュオの記憶の中では、ヒイロは普通の学園生活と無縁だった。
だから友達(?)を呼んで仲良く(?)お勉強するなんて、あの頃のヒイロを知るデュオにしてみればありえないことで、ついヒイロも人間らしくなったんだな、と感動してしまったのだ。
感動に浸っていたデュオが我に返ると、夕飯を掻き込んで食器もそのままに、部屋へ飛び込んでいった。
一方食卓に1人残されたヒイロは、汚く放置されたデュオの食器に眉を寄せていた…。
デュオは部屋に入りパソコンをつけると、すぐさま五飛に連絡を入れる。
なぜ五飛かというと、決して彼が一番暇だからという訳でなく、緊急コールを入れるとあれで結構人が良い五飛は、文句を言いながらも相手をしてくれるからで、前にカトルに緊急コールした所、くだらない事に使わないで下さいと笑顔で怒られた。ちなみにトロワには大した事ではないのがばれているのか、一度もとってもらったことがないのだった…。
「今日は何だっ?」
五飛の第一声はすでに怒っているにも関わらず、デュオはマイペースに話始める。
「ヒイロが今度うちに友達連れてくんだよ!」
目をきらきらさせて喋るデュオに対し、冷めた目をした五飛。
五飛の額に浮かんだ青筋が幾つか増えたが、いつものことなのでデュオは気にしない。それどころか、そんなに怒っていると寿命が縮むぞ、なんて軽口を叩いて五飛の怒りを煽ったりしているほどだ。
「それがどうした」
「あのヒイロに友達ができたんだぜ?」
「それで?」
「それでって…あいつが普通の学生生活送ってるんだぜ…?」
「戦争は終わったんだぞ。あいつだって普通の生活くらい送るだろ」
五飛はふーっとため息をつくと、それだけ言い残して通信を切ってしまった。
真っ黒になったモニターを睨みつけ、デュオは冷たい奴っ!と呟くと直ぐにメーラーを開きみんなにメールを送った。
(ヒイロの友達か…どんな奴がくるんだろ…)
頭の中はその事でいっぱいになり、まるで遠足前の子供の様に、わくわくしているデュオだった。
そして当日…。
「だから今日は駄目だって言ってんだろ?」
「そこをなんとか!お前しか暇そうなやつがいないんだよ〜」
「俺だって忙しいんだよ。見りゃわかるだろ」
「…どうみても暇そうにしか見えないぞ」
「ほらほら帰った帰った!」
デュオが自分よりも体の大きい男を事務所から押し出すと、ちょうどヒイロが帰ってきた。
デュオは男の影からひょいと顔を出し
「おかえり〜」
と目を輝かせながらヒイロに挨拶をする。しかし視線はヒイロを通り越し、その先にいるヒイロの友達に向けられていた。
そのにやけたデュオの表情はヒイロ達の邪魔をする気満々で、その事に気がついていたヒイロは、影から覗いているデュオの元へ行くと
「絶対に邪魔をするな。暇なら仕事に行け」
と、ポケットから何かを取り出しデュオに渡した。
デュオの掌には小さなカメラ…。
(ちっバレてたのかよ…)
勉強中に見に行くと怒られると思い、先手を打って超小型カメラを仕込んで置いたのだが、ヒイロには通用しなかったらしい。
「パソコンを壊さなかったをありがたく思え…」
一言残したヒイロの目は本気だった。
こんにちは〜とヒイロの後ろを付いていく友達を素直に見送り、心の中では
(ぜぇったい写真撮ってやる!)
と邪魔をする気満々でいた。
仕事を放棄したデュオは、2階できっとわいわい楽しくやってるんだろうな〜と思いながら、案の定仕込んでおいたカメラを全部外されていて、何も映していない真っ黒な画面の前でため息を吐いた。
まだヒイロが帰ってきて10分…
「ちょっと休憩しよーぜ!」
なんて入っていったら、ヒイロに撃たれるかもしれない。
普通の学生の前でまさかそんなこと…とは思うが、しかし相手はあのヒイロである。何をしてくるかわからない。デュオは少し考えると、時間潰しにジャンクパーツをいじりはじめた。
ちょっといじって時計を見て、またちょっといじっては時計を見て…いつもだったら食事するのも忘れる位集中できるのに、今日は全くできないでいる。
あれからまだ1時間も経ってないのに、デュオはヒイロの友達が気になって仕方がない。ヒイロの念の押しようをみると、どんな人達なのか余計に気になってしまい、デュオは頭の中は「ヒイロの友達」の事で一杯で、他の事に手がつかない状態になってしまった。
持っていた工具を投げ出して、その場で寝転がってみても、元来じっとしているのが苦手なデュオは直ぐにそわそわしはじめた。
動き出しそうな体を必死に止めながら、学校でのヒイロの様子を友達に聞く妄そ…いや、シュミレーションをしてみたり、そのことを皆に教えた時の様子を思いえがきニヤニヤしてみたり…。ヒイロが知れば、馬鹿なことをと呆れられる様な事をしていた。
そんな妄想もしつくし、やっぱ仕事受ければ良かったかも…という思いを振り払い、じっとヒイロ達がいる上の階を見つめる。見つめると言っても、天井があるわけで、ぽつぽつ残る染み位しか見えないのだが…。とにかく天井の上の、ヒイロ達が座っていると思われる場所を眺めていた。
キィっと扉が開く音が聞こえデュオは飛び起きた。
扉の隙間から見える空は暗くなっている。どうやらデュオはあまりの暇さに、眠ってしまっていたらしい。
「お邪魔しました〜」
と開いた扉から学生達がデュオに声をかけ、そして帰っていく。
学生を見送ったヒイロが事務所へ入って来たとき、デュオはがっくりと項垂れてしまった。
「やっちまった…」
あんなに妄そ…いやシュミレートしたのに、それを生かすことができなかったのだ。
「あー俺の馬鹿やろーっ!!」
あまりのショックに叫ぶデュオ。一方ヒイロは、途中で絶対デュオの妨害が入ると思っていた勉強会が無事に終わった事にほっとしていた。
20100812