の樂園




ヒイロが怪我をして意識不明と聞いたとき、俺はあいつの心配をするよりも、あいつも人間だったんだなという驚きの方が大きかった。


壊れたMSが地面を埋め尽くしている。煙を吹いている物、ショートして火花が散っている物、重苦しい雲が空を覆いつくしているせいもあり、気分を憂鬱にさせた。そばにあるリーオーのコックピットを覗いても誰もいない。MSの墓場、という言葉がぴったりの場所だった。
ようやくリーオー以外の物が見えたと思ったら、それはウイングゼロで、羽はもげ胴体にかろうじて残った顔と腕がついている物が、リーオーの山から突き出ている。壊れて薄く開いたコックピットから光が漏れている事に気がつき、ゼロによじ登りコックピットを覗いた。

どこをみても真っ黒な場所。
暗い、というより全体が黒く塗り潰されている、という表現がぴったりだった。だから誰かに踏まれてしんなりした花が、異様に鮮やかに見えた。
足元に落ちていた花を拾ってみると、くたりと萎れ花弁が何枚か散っていく。


橙色に染まる海は穏やかで、砂浜に落ちている瓶が夕日を浴びてキラキラと光っている。
波打ち際をさくさく歩くと、自分が進む方角に消えかかった足跡があった。
この足跡の主を探してみるが、広い砂浜には自分以外の人は見当たらず、波の音だけが寂しく響いていた。

海の上に浮かんだOZの基地が炎上している。海上と空までも赤く染める炎と、それをも飲み込もうとする真っ黒い煙。
ころころと変わる場面、もうあるはずの無いOZ、ここでようやく自分が夢を見ていることに気がついた。夢とわかり落ち着いて周囲を見回すと、この周辺しか景色は無くその他は真っ黒な空間だった。

柵に寄りかかり基地を眺めているといきなり風景が変わり、今度は教室の中へ移動した。誰もいない教室の扉が少しだけ開いているのが妙に気になり、一気に扉を引いた。
開いた瞬間風が吹き抜け、顔に当たる強い風に思わず目を閉じ、ゆっくりと瞼をあげるとそこは廊下ではなく寮の部屋で、さっきまであった教室は跡形もなく消えている。
入ってすぐに机の上のパソコンに電源がついているのが見え、モニターを覗いてみると意味の無い文字が並んでいた。何となくエンターキーを押してみると、今度はコロニーの部屋に移動した。
ほとんど物がなく、きれいに整理された部屋。人がいたのかベッドは乱れ、ベッドの側には応急セットが散らばっている。それを踏まないようにしてベッドに腰をかけると、さっき散ってしまった花が一面に咲き誇る。まるでスポットライトを浴びているかの様に、自分を中心にして丸く花畑ができ、足元には小さな土盛りがしてあった。
不意に人の気配がして振り向くと、今よりも少し幼いヒイロが泥だらけで立っている。きれいに切り揃えられていた爪の中まで泥が入り込んでいた。
幼いヒイロが汚れた手をぎゅっと握りしめると、後ろを振り向きすぐに花畑を出て行ってしまう。初めて出てきた夢の登場人物を逃すまいと、急いで後をついていくが、いきなり現れたドアに阻まれてしまった。

一応ノックをしてみるが当然反応はなく、慎重にドアを開けてみると黒い空間の中にぽつんと白いベッドが置いてあった。
つんと消毒薬のにおい包まれたベッドには青白い顔したデュオが寝ている。死んではいないようだが、近づいても起きる気配はない。
どこからともなく点滴を持ったヒイロが現れ、デュオの腕に針をさす。そして普段見たことのない穏やかな顔で見下ろすと、ベッドの際に座り何か囁きながら眠っているデュオの頭を撫でていた。ヒイロがそんな二人を眺めているデュオに気がつくと、この空間からベッドごと消え去り、デュオが追おうとするとまたドアが現れた。
ドアを開けて行くたびに出てくる景色は、知らないコロニーや行ったことのない海岸であったりと、自分の記憶にはない場所ばかりが出てきては消えて、再びあの花畑に辿り着く。しかしさっきとは違い土盛りが無かった。

前から何かを抱えた幼いヒイロがとぼとぼと首をうなだれて歩いてくる。そして花畑の中心までくると赤く染まった茶色の毛玉をそっと置き、手で地面を掘り始めた。
茶色の毛玉の正体はどうやら子犬の様で、さっきあった土盛りはこの子犬の墓なのだと容易にわかる。
やはりデュオが今までに見たことの無い表情をして一心不乱に穴を掘り続けるヒイロ。
デュオはヒイロと出会ってから今までを思い返してみても、いつも自分に対してそっけない態度だったり、命令口調で偉そうな態度、それか煩わしそうにしてる顔くらいしか見たことがない。カトルやトロワの話を聞くとそうでもないらしいが、自分が見る限り感情を表に出しているとこを見たのは、夢の中だけれどもこれが初めてだった。

ヒイロが子犬を埋め終わると花が一斉に枯れ、一面が萎れた花で茶色く染まり溶ける様に消えていく。そしてまたドアが現れヒイロがくぐると消えてしまった。
追いかけようとすると、目の前に見えない壁でもあるようで、前に進むことができない。
手で探りながら出口を探していると、見えない壁の向こう側にピースミリオンの医務室が現れた。アストロスーツを着た後ろ姿の自分。その奥にあるベッドにはここからだと見えないが、きっとヒルデが寝ているのだろう。思い出に浸る暇もなく今度は食堂でチェスをしている自分が現れた。しかし座っているのはデュオ1人で、いるはずの対戦相手はどこにもいなかった。
その後もデュオの記憶の中では他にも人がいたはずなのに、ここに出てくるのはすべてデュオ1人だけで、他の人は一切出てこない。そのことを不思議に思っていると、さっき消えたヒイロとデュオが現れた。
今度はベッドはなくヒイロの腿に頭を乗せて仰向けに眠るデュオ。ワンピース型の病医から覗く胸や腕には包帯が巻かれ、突き出た足は黒い空間ではやけに白く感じた。
眠るデュオを見下ろしているヒイロは、ここから移動できないとわかっているのか、必死に出口を探しているデュオを見ても逃げなかった。

壁で隔てられたこの距離は、現実での2人の距離とよく似ているとデュオは思う。
いくらこっちが友好的に話しかけても、嫌われているんじゃないかと思うほどヒイロの態度は素っ気ない。
だけど目の前の眠ったデュオを撫でているヒイロの顔はとても満足そうで、デュオの知っているヒイロとはかけ離れていた。


閉じ込められた所にどんどん水が侵入し、いつの間にか海の底にいる。
ゆったりとした海流に揉まれながら、ウイングが海底に沈んでゆくのを眺めていると、人が海岸の方へ流されてゆくのが見えそれを追っていくと、いつの間にかシャトルのコックピットに辿りつく。OZのアストロスーツを着た2人。自動操縦で進む船の中、気絶したデュオを心配そうな顔でヒイロが覗いていた。

現実で見たことのない顔をしたヒイロ。
心の奥ではそんなヒイロが見たかったのかもしれないとも思ったが、ヒイロ子供の頃やウイングにウイングゼロ、どう考えても自分の夢ではない。
非現実的でありえない話だけれど、もしかしたらヒイロの夢の中なのでは?とデュオは思い始めた。しかしヒイロのデュオに対する態度を考えると、自分の願望なのかもとも思う。
答えを握っているのはあのデュオと共にいるヒイロと目星をつけ、彼を探すためコックピットから出た。


何度もドアを開けようやく辿りついた場所はコロニーの部屋だった。
さっきと同じく床に散らばった応急セット。違うのはここに2人がいることで、またヒイロが逃げだす前にデュオが口を開いた。
「これはお前の夢なのか?それとも俺の願望なのか?」
ベッドに眠るデュオを見ているヒイロは、デュオの問いかけに答える気はないのか、まったく反応を示さない。
「なんで逃げるんだ?一体お前は何がしたい?」
「…逃げているのはお前のほうだ」
こちらに視線をよこさずヒイロは答える。
「仲が良いふりをして壁を作る」
壁を作っているのはお前の方だろ!とデュオは内心思ったが、口には出さないでおく。
「お前は手を差し伸べるふりをして突き落とす」
「お前なんて仲が良いふりだってしないじゃないか!いっつも不機嫌そうな顔しやがって。どうせ俺のことなんて都合のいい道具ぐらいの認識なんだろ!」
「…違う!俺は、お前のことが…」
ヒイロの否定の言葉に、やっぱり自分の願望なのかもとデュオは思った。
「お前のことが好きだった。しかしそれを伝える前にお前は消えた」
いきなりの告白に、夢の中だというのにほっぺを引っ張ってしまう。デュオにとってそれくらい衝撃的な発言だった。
「…で、伝えられないままここで死んでるみたいな俺といちゃいちゃしてるわけ?」
「…」
「そんな黙って寝てるだけの俺が好きなのか?俺はお喋りでじっとしてられないタイプなんだぜ。俺が好きだなんてヒイロの思い違いなんじゃねえの?」
「本当に好きだって思うなら、とっとと起きて本物の俺に言ったらどうだ?俺は逃げないで待っててやるからさ」
ようやくヒイロがデュオの方を向いた。
「信用できない」
「俺は嘘はつかないぜ」
「だが逃げも隠れもするだろう」
疑り深いヒイロに呆れてデュオは深いため息を吐いた。
「そこまで言うなら今からお前を叩き起しに行ってやる!もしそれでお前が起きなかったら、もうそれまでだ。すぐ行くから待ってろよ!」
そこまで言うとデュオは姿を消した。残ったヒイロがベッドに視線を戻すと眠っていたはずのデュオもいなくなっていた。



デュオは飛び起き時計を確認するとまだ深夜だった。
髪の毛も結わかず、近くにあった服を適当に着て家を飛び出し、まだ地球へ向かうシャトルもないので、仕方なく自分のシャトルに飛び乗った。
病院へ着いたのはまだ面会時間前だったが、職員の制止を振り切ってヒイロの病室へ飛び込み、デュオが文字通り叩き起してやろうとヒイロの胸倉をつかむと、目を開いたヒイロにいきなりキスをされ、あまりの恥ずかしさにその場に崩れ落ちた。













20100401
エイプリルフール用のおまけでした。
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