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まだヒイロすら起きない早朝、ヒイロともう1人しかいないはずの家にばたばたと沢山の足音が聞こえた。
まさかこんな時間に来客が来るはずもなく、また誰か来るという話も聞いていない。デュオが目を覚ましたとしてもここまでうるさくは無い。そして2人は泣く子も黙る元工作員、誰かが部屋に侵入してきた時点で気がつくはずだ。一体何だ?と布団の中でヒイロが考えていると今度は足音の代わりに、ヒイロの部屋のドアをたたく音が聞こえ始めた。
ドアの向こうの気配は特に敵意も殺気も無かったが、一応用心のため銃を構えて慎重にドアを開く。するとドアの隙間から何かが転がってきて床にべちゃっと倒れた。
「はやくどけよ!」
「いきなりドア開けんな!!」
「後ろが詰まってんだからはやく行けよ!」
と床の上の塊とドアの向こうから声が聞こえる。いつもよりもちょっとだけ高いけどデュオの声に良く似ているとヒイロは思った。
「お前もぼーっとしてないで明りくらいつけろよっ」
「つか助けろよ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ塊をヒイロがぼーっと眺めていると、下から怒った声が聞こえてきたので明りをつけた。すると塊は小さなデュオが重なってできている物で、扉を開けばドアの向こうにいたデュオたちが入ってくる。
身長約30センチの小さなデュオが5人。
自分はまだ夢の中にいるのか、とヒイロは1人納得しベッドに戻ろうとすると3人のデュオが足にまとわりついてきた。
「ちょっと待てよ!夢じゃないぞこれは現実だ!!」
必死に止めるデュオたち。ヒイロは体をかがめるとちょうど正面にいたデュオのほっぺを引っ張った。
「ぎゃーっ!いきなり何すんだよ!!」
足を持っていた手を離しデュオはほっぺをさする。普通の人よりもかなり力の強いヒイロがやったのだ。痛くないわけがない。赤く腫れたデュオの頬を他のデュオが見て、自分じゃなくて良かったとほっとしていた。そしてヒイロは頬の感触の残る指を見つめ、今日の夢はやけにリアルな感触があるな…なんて考えていた。
「だぁかぁらっ!これは夢じゃないって言ってんだろ!」
1人涙目のデュオが恨みがましい目でヒイロを見上げて怒り、足を蹴っ飛ばす。しかしそこは全長30センチ。足の長さもそのキック力もたいしたことなく、ガンダニウム合金よりも強いと噂のヒイロの体はびくともしなかった…。

呆けて中腰のままのヒイロの周りをいつの間にかデュオが囲んで、何やらみんなで話し合いをしていた。
その様子に気がついたヒイロは、自分がおとぎ話の主人公にでもなったような気がしてちょっと顔がにやけてしまう。そんな顔を真面目に話し合っていたデュオの中の1人が見つけ、思いっきり体当たりをすると、ヒイロが油断していたのと合わさり今度は尻もちをついた。ちょうどヒイロの真後ろにいたデュオは逃げるのが間に合わずに、下敷きになってしまった。運の悪いことに先ほど頬を引っ張られたあのデュオが正面は危ないと思ったのか、今度はヒイロの後ろに行ったため、またも貧乏くじを引いてしまった。
うんうんとヒイロのお尻の下でうめきもがくデュオを他の4人がまたほっとしながら見ている。ようやくヒイロが気づいたのか腰を浮かすと、お尻の下から這って出てぜぇぜぇと息を切らしべたんと床に倒れるデュオ。それを見て他4人は十字を切った。
「すまない…大丈夫か?」
潰れたデュオをヒイロがさすっても反応が無く、みんなの真似をして胸のあたりで十字を切った。
「勝手に殺すな!まだ生きてるから!とにかく、元に戻る方法を考えるぞ!!」
痛む腰をさすりながらむくりと立ち上がったデュオに、他のデュオ達が右手をあげて賛同する。
「どうしてこうなったかもわからないのに、元に戻る方法がわかると思えない…」
デュオ達の会話にぼそりとヒイロが呟くと、話に水を差されたデュオ達が一斉にヒイロをにらんだ。
「…そんなことは俺たちだってわかってんだよ。だけどそんなことでも考えてないと、やってらんねぇんだよ!」
そうだそうだとデュオ達が一斉にうなずくと、ヒイロは少し寂しくなった。
最初はデュオが増えたことに驚いたが、慣れてきた今、ちょこまかと動くデュオ達がなんだか可愛くなってきた所に感じた疎外感。他のガンダムパイロット達といた時は、話題を振ってきたり反応を確かめたりしてきて(うざい時も多かったが…)そんな疎外感を感じたことは無かった。もちろん2人で生活しているこの家でもそんなことを感じたことは無い。
ほんのちょっとだけこのままでもいいかもと思ったけれど、こんなにも寂しくなったり、よくよく考えればデュオ1人でもうるさいのに、5人もいたらうるさくて(もちろん今もヒイロの周りで騒いでいる)たまらない。睡眠も邪魔されたこともあり、ヒイロの機嫌がどんどん悪くなっていく。そんなことに気がつかないデュオ達の声は、話題が盛り上がるのに比例して大きくなっていった。

ヒイロはそんなデュオ達をまたぎ、自分のクローゼットの奥深くにしまってある箱から大きな麻袋と縄をとりだすと、ゆっくりとデュオ達の方へ戻り全員を麻袋の中に詰め込み口を縄でふさぎ、部屋の隅へ置くともうひと眠りするためにベッドに戻り、身動きできないほどぎゅうぎゅうに詰め込まれたデュオ達が、何とか外に出ようと暴れているためガサガサと音がうるさいがそれを無視して目をつぶる。うとうとしてきたころにどたっ、という鈍い音が聞こえた。
目をあけ袋の方へ視線をやると袋が倒れいてる。動いていた袋は今は全く動かず、さっき袋にデュオを詰めたときとは大きさは変わってないようだが、なぜか形が違う。無視して寝てしまおうかとも思ったのだが、やけに静かなのも気になる。どうしようか迷った末、結局デュオの様子を見に行った。
縄をほどいて袋を覗くと小さいデュオ達はいなく、いつも見なれたデュオが1人だけ入っている。ぐったりと気絶したデュオを袋から引っ張りだし観察してみるが、何も変わっているところもなく、あの小さいデュオは一体何だったのかヒイロは首をかしげた。
「いてて…お前、もう少し優しくできないのかよ…」
気がついたデュオが背伸びをしながら立ち上がる。
「まあよくわらないけど元に戻ったのはヒイロのおかげだな」
デュオはヒイロにぎゅっと抱きつくと耳元でありがと、と一言呟いた。すぐに離れようとするデュオをヒイロが抱きしめ返すと、ぐえと苦しそうな声を漏らした。
「だから、お前力強すぎなんだって…」
そう言って苦笑するデュオを抱きしめる力は緩まず、それどころかさらに力が入っていく。
ヒイロは特に悪気があったわけではなく、元に戻ったことを喜んでちょっと力が入りすぎてしまっただけなのだが、普通の人よりちょっとだけ強いデュオにとっては拷問の様に思えた。
どうして分裂したのかとか、どうして元に戻ったのかなんてデュオにとってはもうどうでもよくなり、今は苦しくて意識がかすんでいくこの状況から、どうやって脱出するかで頭がいっぱいになってしまったのだった。










平成22.2.22