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何故かトロワの家の前に動物が捨てられて行く。
オーソドックスに子犬や子猫、更には飼いきれなくなったと思われるトカゲやらカメやらまで、沢山の動物達が家の前に置き去りにされていた。それらは里子にだしたり、そのまま家で飼ったりしている。ここ最近は平和だ、と思っていた矢先また段ボールが捨ててあり、中からか細いが聞こえてきたのだった…。
ヒイロが家に遊びに行くと傷だらけのトロワが出迎えた。あまりの傷の多さにぎょっとしたのもつかの間、トロワの後ろについてきた黒い猫を見て納得した。止まった足に噛みついてみたり、パンチを繰り出したりとせわしなく動いている。トロワはなれているのか何をされても表情ひとつ変えずにいたが、ヒイロが猫を凝視している事に気がつくと新入りだ、と掬い上げて見せた。
手の中でバタバタと暴れている黒猫は、月の輪熊の様に首の下辺りに白いぶちがある。暴れている姿は歯をむき出しにしてとてもかわいいとは言えない姿だった。
ヒイロがトロワの部屋へ着いた時あることに気が付く。いつもたくさんいる動物達を今日に限って一匹も見ない。いるのはすごい声をあげてトロワの手をかじっている猫だけだ。さりげなく訊ねてみれば、みんなこいつから逃げて隠れていると返ってきた。
トロワが猫を床に降ろすと、嫌がらせなのか足に噛みついたり猫キックをしていたが、ヒイロに気が付き近くに寄ってくる。
ヒイロが撫でようと手を出すと、ふんふんと指先の匂いをかいでぺろりとなめ、ちょっとかわいいかも…なんて思った瞬間、子猫特有の細く鋭い爪や牙が手に突き刺さる。他の動物達が逃げるのも納得な痛みとしつこさにヒイロは全言撤回した。
トロワが苦笑いしながら猫を引き剥がそうとするが、お前はスッポンか!と疑う位食いついて離れない。早々に諦めたトロワが、どうやらお前の事が気に入ったらしい、何ていいはじめヒイロは顔をしかめた。
2
ヒイロの手にじゃれついて離れようとしない猫の気を引くためにトロワが猫じゃらしを取り出すと、途端にヒイロの手に興味を無くし猫じゃらしに飛びかかろうと体勢を構える。
じっくりと見定め猫じゃらし目掛け飛び付いたと思いきや、その先にあるトロワの手に思いっきり噛みついた。凶暴な子猫は体全体を使い手に攻撃をするが、トロワは少し顔をしかめただけですぐに普段通りのポーカーフェイスに戻る。
勢い余って手にじゃれついた…わけでは決して無い。最初から手を狙って飛び付いているのだ。噛み心地が良いのか何なのかわからないが、子猫はおもちゃよりも手や足にじゃれるのが好きらしく、隙あらば噛みついてやると言う空気が流れている。
やるかやられるか…ゆらゆらと揺れている尻尾を見ながらヒイロはそんな言葉が頭をよぎった。
大袈裟なようだが気を抜けばさっきと同じようになるのは間違いない。その証拠に子猫はトロワの手にじゃれつつ次の獲物を探る様に目を光らせている。迂闊な事は出来ないとヒイロは喉を鳴らす。
変な緊張感に包まれたこの部屋の空気を現況の子猫が壊した。
さっきまでじゃれていた手を離れ、何もない部屋のすみに向かって歩き始めるが二、三歩歩いた所でいきなり倒れピクリとも動かなくなる。
今の今まではしゃいでいた子猫のいきなりの行動にヒイロは心配になるが、トロワはなれた様子で子猫を抱き上げ近くにある猫用のベッドにそっと置くと、疲れて眠くなっただけだとヒイロに告げた。
トロワの言葉通り、子猫は立つのも億劫なのか置かれた場所で丸くなり、すぐに寝息を立て始める。
その姿は微笑ましい。
そう、とても微笑ましいのだがここにきてからずっと子猫に振り回されたため、一気に疲れが出たヒイロにはとても小憎たらしく見えたのだった。